ジョコビッチの食事

.Books&DVD… .Lowcarboあるいは糖質制限

ジョコビッチ強し。今年も全豪オープンでフェデラーを寄せ付けませんでした。でも以前はスタミナが続かず、勝ったり負けたりフラフラしていた時期があったのを憶えているでしょうか。

なぜ、ここまで安定的に強くなったのか。彼の説明によるとグルテンフリーな食事方法に切り替えたからなのだそうです。彼の場合グルテンフリーだけじゃなく、ローカーボ(低炭水化物食)も実践しているのがミソ。それを余すところなく紹介したのが「ジョコビッチの生まれ変わる食事」です(三五館 原題はServe To Win)。

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djokoviジョコビッチは2007年にフェデラーとナダルの2強を倒した2人目の選手。ところが、一度優勝しても次に大負けしたりで続かない。試合途中で体調がおかしくなったり喘息がひどくなったりしていたのだそうな。ジョコさん曰く、まるで別人のようになるのだそうです。

ところが、2010年たまたま彼の最悪な試合を観ていた祖国セルビアのある医者が、彼の不調の原因は喘息ではなく食事にあるのではないかと気づいたことで事態は一変。ELISA試験(アレルギーテスト)をしたら、「小麦と乳糖に強い不耐性があり、トマトに対しても少し敏感」だと判明しました。その結果を受け、医者は体の機能を上げたいのなら小麦等を絶てとジョコさんを諭したのです。

それから8ヶ月、ジョコさんはかつてないほど強靱になりました。曰く、ただの「そこそこいい選手」から「世界最高の選手」に変えてしまったのは、新しいコーチ、新しいトレーニング方法、新しいサーブではなく、新しい食事を採用したからとのこと。

その内容については本書を参照してもらうとして、簡単に云えばグルテンを含む小麦絡みの食べ物をやめる、血糖値を急上昇させるグルコースを排除する(所謂ローカーボあるいは糖質制限)等々を採用したこと。小麦はグルテンだけではなく炭水化物いっぱいなので話としては筋が通っています。また、ローカーボな食事に変えることで集中力や持久力を向上させたというわけです。

もともと欧米ではグルテンが原因で起こるセリアック病はよく知られており、彼の地ではグルテンフリーは糖質制限よりも一般的。でも、ジョコビッチさんは小麦という食材をを血糖値上昇という観点でも捕らえているところが素晴らしい(注)。

つまり、ジョコビッチさんの強さの根幹はグルテンフリーでローカーボな食事方法です。日本のメディアはそのことを知らないのか、それとも特別ケースだとシカトしているのでしょうか。いずれにしても彼が明言する強さのルーツに肉迫していないのは明らかです。

ここ10年20年の研究で生理学や栄養学そしてスポーツ医学は激変しました。そのことを理解せず、脳は糖質だけしか使えない等と(間違った知識を)説明する医者や栄養学者あるいは医療ジャーナリストと称する集団、そして追随するスポーツ業界が日本の実情です。ノドグロだけでは決してローカーボな試合巧者には勝てませんゾ(笑)。

なお、この本で注意すべき点があるとすれば、ジョコビッチさんのような健常人と糖尿病あるいはその予備群な人とでは判断を少し変えなければならないということ。後者は食後血糖値の急激な上昇をいかに抑えるかが第一に問題になるのであって、強靱な肉体や体力を育成するのが主たる目的ではないからです。それを差し引いても、この本は糖質制限やグルテンフリーに関心のある者にとって必読書の1つです(お薦め)。

(注)グルテンフリーを推奨する先導者の中には糖質制限を根拠なく非難する者がいます。一方、糖質制限者を進める者たちもグルテンへの配慮が全くないか、少ないので要注意。私は1年前にグルテン関連の文献を読んで、グルテンを山ほど使う糖質制限パンの自作を断念しました。グルテンの研究者が指摘するように代謝産物が脳に入り込むようなら大問題だと私は憂慮しています(英語の文献はいくつかあり)。