放射線とアスベスト

.opinion 3.11

「放射線は色もニオイもない。ガンになるとしても5年後か10年後かもっと先か。放射線でガンになっても、それ以外のガンと区別がつかない。心配してもしょうがない。心配する方が病気になりますよ。」・・・そんな無責任な話を何度も聞きながら、思い出したのがアスベスト。

・・・・・

アスベストとは石綿、セキメンのこと。いろいろな種類がありますが、どれも極細で長さ数ミクロンの繊維状ですから、目には見えない小ささ。それを加工したり、他のものに混ぜたりして使われてきました。熱や薬品に強く、不燃性や断熱性があるため、屋根材や吹きつけ材等にも多用されてきました。厄介なことに、アスベストを吸い込むと肺に残り、約20年~50年後に中皮腫などの被害が顕在化し、場合によっては死に至ります。アスベストが「静かな時限爆弾」と云われる所以です。

報告されているガンの危険率は、1リットル中にアスベスト微細線維1本が含まれている空気を50年吸い続けると、生涯発がん率で10万分の20~130(報告機関によりいろいろ)。大雑把に云えば、千分の1くらいの発がん率! 吸い込むアスベストの微細線維が多ければ、それだけ発がんリスクも上昇し、危険性は高まります。

でも、先のことなんかわからない、現時点で心配する必要なしというわけでしょうか。危険なアスベスト製品を売っていたのはクボタやニチアス(日本アスベスト転じてニチアス)等々。つい最近まで屋根材にも入っていましたし、アスベストと無縁な住宅を探すのは、この国では極めて困難でしょう。(注)

そんな危険な話でもメディアがあまり問題にすることがないので(理由は皆さんで考えて下さい)、一般人にとってはアスベストがどれほど危険なものか分からず仕舞い。阪神大震災の後、住宅などの解体作業で大量のアスベストが環境中にばらまかれたことが報じられても、あまり世間の関心を引きませんでした。なにしろ何年も先に影響が出てくる「静かな時限爆弾」ですから。

大きく話題になったのは、2005年にクボタ工場周辺に中皮腫を患う人たちが沢山いること、アスベスト関連で死亡した従業員が74人もいたことがわかった時でした。「静かな時限爆弾」が爆発したわけです。会社側は賠償手続きに入ることになりますが、先送りした責任のオトシマエは大きく、おそらく被害は加害者の思惑以上に広がっていることだと推察します。アスベスト問題の現状について知りたい方は、たとえば関西労働者安全センター事務局ブログをご覧下さい。

どうやら私たちは習性として、被害が顕在化するまで「被害はない」と安易に考える傾向にあるらしい。対処を先送りして楽をしたいという気持ちも働くのでしょう。年をとれば他の疾病と区別がつかなくなるじゃないか。そんな気持ちはわかりますが、先延ばしすればするほど被害が大きくなるとしたら? そして一番痛い目をみるのは被害者なのです。

不幸にも被害が明らかになると事情は一変します。TVで実被害に苦しむ人たちの映像が流れ、世間でも行政は何をしていたんだ、そんなことにも気づかなかったのか!、対策はどうしていたんだ!、責任者を出せ!……、そんな声が大きくなります。もっともなんですが、でも違うんです。後からあれこれ云うのはそんなに難しくありません。まだキケンがカタチをとる前の見えない時にどう考え、予測し、判断するか。そこが難しいしキモなんです。

先のことだからと問題を先送りしていたのは、実は「私たちの社会」そのもの。アスベストを作って商売していた会社の責任は一番重い。その危険性を隠蔽したのは誰なのか。危険性を無視し「便益」ばかりを強調していた御用学者たち、危険だとわかっていたのに対策をとらなかった行政の無策無責任、そんな行政を監督するはずの議員の不勉強、でも議員を選んだのは私たち。ですから、回り回って私たちにも責任の一端あり。

いいえ、みんなが悪いというのではありません。悪い奴に好き放題させた上、オトシマエもとらせず、問題の先送りを認めてしまう社会の仕組みを問題にしているのです。その仕組みに1人1人がノーと云わなければ、結局は私たち1人1人も加害者側だということ。

翻って放射線のことを考えてみましょう。

ニオイも色もないので、被曝したことすら認識できないかもしれません。でも、しきい値なしの危険だから被曝したら被曝しただけのマイナスを被ってしまいます。過去の研究から考えると、ガンや白血病等になるのは5年後10年後以降のこと。被害が顕在化するまで、そんなことは起こらないだろうと考えますか? 心の中で「ただちに影響はないだろう」と慢心してはいませんか?

私は有害物質の危険性について警鐘を鳴らし、ささやかですが本サイトで、危ない、危険だ、できるなら遠くへ等々と繰り返してきました。問題をなかったことにしたり先送りする人たちの側にはいたくありませんから。

最初の頃の爆発を経て、東電福一原発からの放射線放出は少なくなってきたとか。でも、まだ冷却安定化作業には移行していません。既にばらまかれた放射性物質は数十年数百年〜その場を汚染し続けることでしょう。チェルノブイリ原発事故と同様に土地利用を諦めなければならない地域はたくさん出てくることでしょう。

「先のことはわからない」のだから、「現時点で心配する必要なし」で「後は知らない」と問題を先送りするのではなく、「先のことはわからない」からこそ、悪いケースを視野に入れ、避難退避を含め、できるだけ安全を確保できるような対処を打ち出して欲しい、と願う次第。被害が顕わになるまで放置していたアスベスト対策の失敗の歴史に学ぶべきでしょう。

(注)私は1999年に自宅を建てる時、アスベストを一切排除しようと建材1つ1つをチェックしました。すると、なんとまぁ、ここにもそこにもアスベスト! 世界的に禁止されているはずのアスベストが日本では堂々と使われているのに唖然。阪神大震災であれだけ騒がれても「身近に被害が出ない」限り問題にならないのでしょうか。本サイトでも検索欄で「アスベスト」とすれば関係投稿が出てきます。お時間あればどうぞ。