事実無根の根っこ
2025/03/23
先月から気になっていた映画『事実無根』を京都シネマで観ました。かなり地味な映画ですが、後からじわじわくる感じがマルで面白い。いうなれば噛めば噛むほど味が出るスルメイカのような感じで、記憶に残りそうな映画でした。
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身に覚えのないDVで離婚することになり娘に会えなくなった父親、無実のセクハラでクビになった大学教授、その他小さな喫茶店に集まる人たちの過去と現在の話、一言でいえばそんなところでしょうか。昔の小津映画に代表されるような生活感があり暖かさも随所に見られるものの、実は最初から最後までいろいろなウソが散りばめられているところがミソ。
ウソといっても、小さくて可愛いウソから人生を左右するようなウソまで登場するのがシナリオの妙味。最初と最後のシーンで登場するムシだって・・・(何がウソかはここでは云わない)。
アクションやサスペンスではないので、スピード感や興奮を映画に求める人には不向きかも。でも、いろんなシーンやセリフに仕掛けられた含意を後から考えるとじわじわと面白さが滲み出てくるというか、ゆっくり味わうタイプの映画です。
この面白さをどう表現したらいいのか。あれこれ思案していると、連れ合いがネットで面白い評論を見つけてきました。それは、月刊「風まかせ」に掲載された『事実無根』―「重層的」な面白さに溢れる、京都発の自主製作映画 園崎明夫(2024年12月8日)です。
園崎氏曰く、「アメリカ映画も日本映画も、近年は良くも悪しくも表現が行き届いているというか、親切で分かり易い映画が多いからか、観客の反応、楽しみ方もけっこう単純化してしまっている」とした上で、
この『事実無根』という作品は、ストーリーそのものがそれほど複雑に込み入っているわけではないのに、はっきりいって、親切でもなければ、分かり易くもない。そして、まさにそこが面白い。
とのこと。まさにそう!
・・・柳監督の様々な想いの詰まった、観客それぞれが自由な視点で、自由な感性と思考で楽しめる、素晴らしい自主製作映画です!
とし、「観る人によって様々な相貌を現す「重層的」な構成を持った作品」と喝破したのは秀逸な評論です。私自身、うまく言語化できなかった感想を見事に記した内容でした。100人が観たら百人百様の感想を持つ、同じ人が何度も観たら観る都度に感想が変わるし深まる、という感じもします。
この映画、零細独立系の映画なので当初京都シネマで2月下旬から2週間だけの上映予定でしたが、お客の入りが良かったのか延長に延長を重ねて4月10日まで上映されることになりました。さらに5月からは東京などでも上演されるとのこと。もし機会があれば是非どうぞ。「カメ止め」とか「侍タイムスリッパー」のように全国展開されることを強く願います。お薦め。