糖質制限には科学的根拠あり・・・米国糖尿病協会の見解 その2

.Lowcarboあるいは糖質制限

dbcare2米国糖尿病協会(ADA)は2008年勧告で糖質制限による糖尿人の食事管理を推奨しました。でも、話はそう単純ではありません。科学的根拠ありと認定したにもかかわらず、それまでの勧告と糖質制限食との関係がはっきりせず、話が浮いた感じもします。その後この栄養管理に関する記載が微妙に変わっていくことになりますが、現在どうなっているのか。年度を追ってその内容を紹介し、現在までの変遷について記しておきましょう。

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元来、糖尿病の治療というのは、糖尿病になってから薬剤やインスリンを使って血糖値のコントロール(Glycemic control)を行うことで、失明や腎症あるいは壊疽や神経障害をいかにして回避していくのか、つまり合併症を防ぐことを重視します。


でも、糖尿病になってからあれこれ取り組んでも予防には到底なりません。適切な糖尿病の診断基準やそのモニタリングはもちろんですが、ADAは予防を重視しており、医学的栄養治療(Medical Nutrition Therapy; MNT)という項目を立てて、何を行えばよいのか、その勧告を出しています。先の2008年の糖質制限食に関する勧告はこの栄養指導の一般勧告の中で登場しました。

もう一度紹介すると、

In overweight and obese insulin- resistant individuals, modest weight loss has been shown to reduce insulin resistance. Thus, weight loss is recommended for all overweight or obese individuals who have or are at risk for diabetes. (A)

For weight loss, either low-carbohy- drate or low-fat calorie-restricted diets may be effective in the short term (up to 1 year). (A) (Executive Summary: Standards of Medical Care in Diabetes 2008 より)

太りすぎや肥満はその体重を減らすことでインスリンの抵抗性を弱めるので、体重減少は糖尿病やその危険がある者に推奨される、そのためには低炭水化物食(糖質制限食)、低脂肪カロリー制限食が短期的に効果的(1年まで)という勧告でした。どちらも科学的根拠はAですから、文句なく糖質制限食も糖尿病治療や予防に有効という判断となっています。

ところが一方で、従来通りのカロリー制限や脂肪制限が一次的な糖尿病予防には効果的で推奨できるという項も別にあり(糖質制限食は無視)、いったいADAは何を薦めているのか、糖質制限をどう捉えているのか、そこらがはっきりしません。2007年勧告に無理矢理糖質制限食を追加して作成した2008年勧告という感じが否めません(私見)。

行間を読むなら、低カロリー食は糖尿病の危険性有り無しに関係なく推奨できるが、糖質制限食は糖尿病あるいはその危険のある者に限って推奨できるといいたいのかもしれません。でも、これは正しくありません。従来の低カロリー食勧告には何の問題もなかったという責任逃れな姿がそこに浮かんできます。

栄養療法に関しては2011年勧告で、それまでの糖質制限食、低カロリー食、低脂肪カロリー制限食に地中海食が加わり、効果の程度が2年に伸ばされました(up to 2 years)。これは2年までの効果を調査した研究報告が公表されたことによる修正で、2年しか効果がないと云っているわけではありません。日本の学者の中には糖質制限には2年しか効果がない、長期的には不明などというような発言をする者がいますが、もともとこの手の研究は2年までの研究しかないわけですから、この批判は的外れで正しくありません。

さて、最新の2013年勧告まで内容をチェックしてみると、肥満防止としての糖質制限食については2008年以降、一貫してその効果が認められています。

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ただ、日常の血糖値コントロールをどうするのかという課題について、ADA勧告は明快な説明をしてません。記述された内容は糖尿病管理として、炭水化物、たんぱく質、脂肪という主要栄養物質を調整する(つまりバランスのよい食事を行うこと)というのは科学的根拠がCクラス、つまり根拠が薄い話になっています。一方で、炭水化物のモニタリングは血糖値コントロールの要とされ、より根拠があるBクラスになっています。つまり、バランスの良いカロリー制限食で血糖値コントロールを行うのは糖質制限よりも根拠が薄いといっているわけで、カロリー制限にのみ拘る日本の糖尿病学会は面目丸つぶれです。

この彼我の落差はいったい何なのか。好意的に受け取れば、血糖値コントロールにとっては糖質制限食の方がカロリー制限より重要だとも読み取れますが、表現もロジックもわかりにくい。おそらく、そこらが米国流ソフトランディングの妙技なのでしょう。

近年の研究成果や世界の動向を無視し、ガラパゴス化してしまった日本の糖尿病学会。糖質制限の普及を拒む理由がいったい何かはわかりませんが、この先にあるのはハードランディング、つまり糖尿病医に対する信頼崩壊、現行栄養指導の瓦解でしかないのでは?

二回続けて読みにくい文章になってしまいました。私が云いたかったのは、日本糖尿病学会やその取り巻きがいう、糖質制限食には科学的根拠がないとか、長期には問題がある等というコメントが全くの言いがかりだということです。それは米国糖尿病協会の見解を読めば明らか。正確に判断したい人は是非原典である米国糖尿病協会の勧告にアクセスして下さい。

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