ヒトはなぜ太るのか? その3 砂糖は毒?

.Lowcarboあるいは糖質制限

sugarNYゲーリー・トーベスさんのインターネットサイトには氏が過去に発表した書き物が掲載されています。どれも有益で刺激的な内容です。本の中でよくわからなった件についても、より深い理解が得られるはずです。たとえば、氏が2011年にニューヨークタイムズに発表した『Is Sugar Toxic?』にはびっくり。肥満の危険性のみならず、がんとの関係が赤裸々に示されていたからです。

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『Is Sugar Toxic?』をプリンターに打ち出してみると、ヒラギノ丸ゴシック14ポイントにしてA4でなんと15ページ!。本でも1章分以上のボリュームで、読むにはそれなりの根性が要ります。

出だしでは、UCSFの小児科教授ロバート・ルスティグ氏の『砂糖:苦い真実』を取り上げ、「砂糖は空っぽのカロリーで毒でしかない」というルスティグ氏の見解が本当なのかどうかと疑問を投げかけます。

「空っぽ」というのは栄養学の用語で、炭水化物以外の栄養素を含まないという意味ですが、ルスティグ氏はとくに果糖(フルクトース)に焦点をあて、深刻な肥満に繋がる危険性を解説しています。(聴き取りが得意でない場合でも、PCで英語字幕を表示させれば何とかなるでしょう。グッドラック!)

著者のトーベスさんはそこから議論を敷衍させ、砂糖のいろいろな危険性に踏み込んでいきます。興味のある人は、(面倒でも)くだんの記事をお読み下さい。その中で私がとくに興味を覚えたのは、砂糖とがんとの関係です。

トーベスさんによると、がんと西洋風の食事や生活スタイルとがリンクしていると考えている研究者らは、この関係が肥満や糖尿病、そしてメタボリック症候群(インスリン抵抗性等)を発症させることを認めているとのこと。根拠として、世界がん研究基金&米国がん研究所が発表した「食べ物、栄養、運動とがんの予防」(2007)の結論を挙げています。

具体的にいえば、がん細胞は成長増殖の燃料となる血糖を提供してくれるインスリン依存性があり、一方でインスリンやインスリンのような成長要因が、がん細胞にシグナルを与えているということ。とくに乳がんや大腸がんについては、インスリンレベルの上昇ががんの必要ステップになっているのだそうです。

また、その方面の研究を行っている著名ながん研究者らは、がんリスクを減らすために日常生活において精製砂糖を減らしたり、砂糖をこわがっている(避けている)とトーベスさんに漏らしていたそうな。危険性を知る者だからこそ、砂糖の危険性を身をもって示しているわけです。

そういえば、江部医師と作家の宮本輝さんの対談本の中にPETのことが話題になっていました。PETとは、がん細胞がブドウ糖をエサ(エネルギー)にすることを利用した新しい診断技術のことですが(正確にはフルオロデオキシグルコース、FDGという放射性グルコースを使用)、がんが糖質を好むのなら糖質絶ちでがんの増殖を減らせるのではないかという話です。先の世界的ながん研究の到達点からすると、さもありなんな話ですね。

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40年近く前、私の学生時代の時のことですが、正体不明な工場排水の有害性について当時のボス教授(故人)と侃々諤々議論している時、彼が私に云った台詞を今でもよく覚えています。それは、

「有田クン、砂糖も毒なんですよ。君はどう考えているの?」、

これに対し、私の答えは、

「そりゃ砂糖だって山ほど摂れば有害でしょう。でも、微量でも危険な化学物質と、日常的に口に入れる程度の砂糖とをいっしょにするのは排出者責任を隠蔽するだけ。」

でした。

これで正解だと私はつい最近まで考えていました。でも、はたしてそれは本当に正解だったのか? 

炭水化物(砂糖やでんぷん類)をふんだんに摂る生活を行っていれば、いずれ膵臓が疲労するとともに、体中でインスリンの抵抗性が高まり、そして重篤な病に繋がります。加えてさらに、がんの原因にまで繋がっていくなんて想像もしていませんでした。そのリスクの大きさからすれば、私が取り組んできた、10のマイナス5乗程度の微量有害物質のリスクなどは無きに等しいものかもしれません。

岩井さん、(発言意図を無視すれば)あなたの言い分は正しかったみたい。トーベスさんの『Is Sugar Toxic?』を読んで、改めてそう感じる次第です。