埼玉プール事故:吸い込みと吸い付き

プール事故

埼玉県ふじみ野市大井プールの事件で、吸水口・排水口に吸い込まれるという危険性が大きくクロースアップされました(クローズアップは和製英語)。でも、吸い込まれるというのを「体ごと吸い込まれること」だと勘違いしている人が後を絶ちません。
体ごと全部吸い込まれなくても問題は同じ。体の一部でも吸い込まれてしまえば、吸引力が強くて自力脱出できませんから溺れてしまいます。また、体の一部が吸排水口に吸い付けられてしまうのを私は「吸い込まれる」事象に含めていましたが、どうも一般の理解はそうではなさそうです。私自身の反省もあり、改めて考えてみました。…

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今回のふじみ野市の事件では、流水プールの吸水口の安全柵が開いていたところに遊泳中の女の子が吸い込まれてしまった悲惨なものでした。吸水管の管径が30センチだったこともあり、管の奥深くまで引き込まれてしまいました。このことをもって、吸水口排水口に吸い込まれるという事故を「体ごと吸い込まれてしまう」ものだと勘違いしている人たちがいるようです。どこかの自治体の教育委員会関係者が、自分のプールは管の口径が15センチ程度だから大丈夫だ…等という云い方をしていますが(つまり、管の中まで引き込まれることはないという意味でしょう)、まさに勘違いの典型です。

私の知る限り、体ごと吸水管排水管の中に引き込まれてしまったのは今回を除いて2例あります(拙著「あぷないプール」参照)。1つは、1984年8月山形県上山市の学校プールで、中一の水泳部員男子が頭から吸い込まれ管の中に14mも入り込み死亡したとされています。2つめは、1993年千葉県酒々井町のプール。こちらは吸水口ではなく吹き出し口に吸い込まれそうになった男子を救出したら、さらに奥に女の子を発見。でも数日後に死亡したという痛ましい事件でした。これらはたしかに吸排水管の口径は比較的大きかったのかもしれません。

でも、体ごと全部吸い込まれてしまうのはむしろ少ないケースです。多くの場合は、吸水口に体の一部が吸い込まれて動けなくなり、自力脱出できず、口と鼻が水面より上に出せない姿勢になってしまって溺れてしまうというケースです。頭、足、手、肘、膝等が吸い込まれてしまうのですが、この中には体の一部が吸水口排水口に吸い付けられてしまった、という方が現象的にはしっくりくるケースが含まれています。足がつく深さのプールであっても、吸い付けられた時の姿勢によっては溺れてしまうわけです。

たとえば、1994年北海道稚内市営プール。遊泳中に小学校6年生が腹部を吸い付けられ一時意識不明になったが一命をとりとめたとのこと。これは吸い込まれたというよりも吸い付けられた例といえます。また、1999年の東京都青梅市の学校プールでの事件でも被害者女の子のお尻が排水口に吸い付けられてしまったと聞いています。また、2000年3月京都府南丹市の保養施設・こども用流水プールで小学一年生男児(当時)が吸水口に背中を吸い付けられたのも、「吸い付けられた」事件でしょうし、今年7月30日群馬県伊勢崎市の市営プールで遊泳中の小学6年生男児2人が吸水口に張り付き動けなくなるという事件も、「吸い付けられた」事件です。

繰り返しになりますが、
吸排水口の危険性とは、体ごと全部吸い込まれてしまう危険性だけでありません。体の一部分が吸い込まれて溺死するケースが多く、さらに体の一部分が吸い付けられて自力脱出できなくなることもあることを、プール関係者はご理解下さい。管のサイズの大小の問題では決してありません。

また、吸引力のきわめて強い流水プールだけの問題ではなく、学校プールでもフタがあるからもう安心などいう問題ではありません。フタが固定されていても、設計上の問題から、きわめて「あぶないプール」がまだ日本全国にありそうなのです。吸排水口には早急にフタを固定しなければなりませんが、まだ吸排水問題にフタをしてはなりません。