埼玉プール事故:吸水口あるいは排水口の吸引力

プール事故

今回ふじみ野市のプールで問題となった吸水口。この吸引力はいかほどのものか。メディア報道でもどうしたら視聴者にその威力を実感させることができるか、そこに腐心していました。というのも、吸引力がたいした力ではないという印象では問題の悲惨さを訴えられないから、だったのでしょう。

私が知る限り、吸水口の引っ張り力を測定したケースは2つあります。1つは大阪市泉尾工業高校で起きた排水口事件の裁判の時に議論されたもの。2つ目は94年の鹿児島県金峰町の事件に関する裁判で鹿児島大学の野崎先生が鑑定したものです。…(この稿、書き直しで再アップ)

(右上の写真は鹿児島地裁事件番号H7年(7)第781号での鑑定書(コピー))

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まず、大阪市泉尾工業高校での事件からいきましょう。判例タイムズの499号によると、この高校の1年生男子・水泳部員が部活中に排水口に左足太ももを吸い込まれ、吸引力が強かったので足を引き抜くことができず溺死したという痛ましいもの。
その時の裁判で閉塞率が100%、つまり排水口の断面積に対して体の断面積の全部はまり込んでしまった場合、200キロを超える力がかかることが測定結果として出ています。閉塞率が半分程度なら吸引力は1キロ程度ですから、はまり込んでしまえばしまうほど信じられないくらいの力で吸い込まれることになるわけ。200キロがその程度の大きさかというのは難しいのですが、普通の大人でも100キロの吸引力には対抗できないのではないでしょうか。

(上図は拙著「あぶないプール」p.76より)

もう一方の鹿児島県での事件はどうだったか。こちらは、日置郡金峰町の田布施小学校で、プール排水口に小学校5年生男子が膝を吸い込まれ溺死しました。排水口のフタは固定されておらず、簡単に開けることができる状況だったこと、他にも吸い込まれそうになった生徒がいたことが後の学校側調査で明らかになっています。

さて、こちらも裁判になり、排水口の吸引力について鹿児島大学の野崎先生が1997年に鑑定を行っています(上記写真)。それによると、「膝の先端部が排水口内部に入り込んだ状態ではかなりの吸引力が作用し、ほぼ全閉状態となり、排水口全閉初期において瞬間的に約226キログラムの吸引力が作用し、その後キャビテーションによるポンプ性能低下により約130キログラムの吸引力が連続的に作用することとなる」としています。また、「大人に比べ平均的に体力は弱く体脂肪率の低い子供の場合、姿勢などの条件にも左右されるが、10キログラム程の吸引力でも脱出不可能になり得る場合がある」とも指摘しています。

今回のふじみ野市のプール吸水口はどのくらいの力だったのか。ポンプの能力もわかりませんし、実際これは測定してみなければわかりません。でも、流速2.4mの流れから推測すれば、小口径配管の200キロよりも小さいとはとても云いにくい。むしろ、想像を絶するような力ではなかったかと推測します。

以上が、吸引力の大きさと恐ろしさ。ふじみ野市事件の後、全国各地でプール吸水口(排水口)の実態調査が行われていますが、一部報道によると流水プールではないから問題はないとか、排水管の管径が小さいので危険性は少ない等といっているプール管理者がいるようです。物事の理屈を全く理解しておらず、とんでもないことです。やはり、まだまだ「あぶないプール」はあなたの近くにもあると云わざるを得ません(きっぱり)。