ジーメンス その3 新エネルギー政策の牽引役

.opinion 3.11

2022年までに原発の全廃を目指すドイツ。日本の政治家や経済界は脱原発なんて夢物語だと主張しますが、だとしたらドイツは夢想国家なのか。否。ドイツ人特有の綿密さで見通す未来の姿には原発というものはありません。一方で、日本のリーダーと云われているる連中にはフクシマの反省もなければ、先を読む力もありません。そんな状況に私は怒りを感じます。

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ドイツが目指す新しいエネルギー政策への移行の中で、ジーメンスがどういう役割を果たしているのか。それを理解するためにはまず、ドイツの新エネルギー政策なるものを知っておかねばなりません。既に本サイトでも小出しにアップしてきましたが、再度まとめた上でジーメンスの取り組みについて紹介しましょう(ジーメンスレポートから順次要約)。;後日再チェックして誤りがあれば訂正します。

まずドイツは2022年までに原発をやめます。その際、2050年までに温室効果ガスの80%削減や再生可能エネルギーによる比率を80%まで高め、一次エネルギー消費を50%削減すること(1990年比)を目論んでいます。

そのためには発電システムを根本から見直し、現在原発からの電力供給量20ギガワット(GW)は10年以内に他の発電所から得られなければならなくなります。その投資規模は年間約200億€。

この政策に伴うリスクについては既に説明した通りですが、明確なのはドイツの場合、ガス発電と再生可能エネルギーに焦点が当てられ、それらの普及目標として、「経済的に許容できるコスト」と現行の産業活動の活動連鎖を妨げないようにすることを掲げています。

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重視しているのが政策の実行可能性。夢物語じゃなく、ホンマにちゃんとできるんかいな~という話です。ジーメンスのレポートによると、

まず、電力不足になるのかならないのか。老朽化した原発等の停止によって大雑把にいって8.5GWの能力ダウンになっているので、新しい発電所(原発以外)が稼働するまで電力を輸入したり、化石燃料を使う古い発電所を稼働させなければならない。(有田注:それで大丈夫という意味なんでしょうね)

ドイツの電力供給の中心となるのは化石燃料であり続けるだろう。コンバインドサイクル発電はその稼働開始までの迅速性により、太陽光や風力発電が停滞した時には供給の安全性を確保できるだろう。長期的にみて、石炭がその安さと埋蔵量の大きさから世界の電力源だろう。この場合、石炭火力発電の効率を上げ、よりクリーンにすることが求められている。

炭酸ガスは煙突ガスから分離し、貯蔵され利用できるだろう(有田注:どこまで実現できるのか私は不知)。でも、ドイツ再生可能エネルギー法の実現に向けて集中しなければならない。同時に再生可能エネルギーは競合的でなければならない。

2030年以前にドイツの電力の約半分を占めることになるだろうし、2050年には80%になるだろう。その場合、補助金なしでも競合できなければ電気代は跳ね上がることになる。目標としては風力発電を石炭電力と同じくらい安くすることだ。

数千キロメートルになる送配電網を作らなければならない点について。この現代化と拡張が再生可能エネルギー導入のカギになり、現在の送配電網は大きなボトルネックになっているとしています。

ドイツエネルギー省によると、再生可能エネルギーを消費者へ送電するには約4000kmの新しい高電圧線が必要になるとのこと。でも、ジーメンスは既にそういう技術手段とノウハウを持っている。

電力網はもっとスマートにならなければならない(スマートグリッド)。ソーラーであれ、風力であれ、バイオマス、小規模コージェネ設備であれ、昔の消費者がだんだん生産者になりつつある。その結果、需要と供給を効果的にバランスさせ、送電網の安定性を確保するためにはスマートグリッドが必要となる。

グリッドの現代化だけでなく、再生可能エネルギー源からの入力の変動を抑え、安定性を保つためには蓄電能力のアップもいる。〔中略)燃料電池システムの導入も有用だ。

節電もまた新エネルギー政策の重要な要素であり。とりわけ、もっともクリーンなエネルギーは消費しないことである(有田注:こんな話がストレートに出てくる処がドイツらしいし、素敵です)。節電に関してはすべての分野で潜在的に大きなものがある。

->産業:節電効果大。既存技術を用いて60%カット可能。

->ビル:ビルは世界のエネルギー消費の約40%、温室効果ガスの20%を排出。現代技術で50%まで削減可能。

->家電製品:私的なエネルギー消費の約40%は家電製品によるが、ここにも大きな節電の可能性あり。最近の電化製品なら1990年代の半分以上をカットできる。

電力需要は供給量に合わせるべきだ。供給が少なく、価格が高い場合には、いわゆる需要管理システムが消費を抑制し、電力網の負担を減らすことになる。

賢明なるファイナンス、近隣諸国とくにEUとの共同歩調も必要。

新しいエネルギー政策はごく普通の発想でなければならず、鉄塔一本でも苦い争いにしてはいけない。
再生可能エネルギーにはイエス、でも送電網にはノーとなるのはよくありそう。持続可能、安全、経済的で原発なしの電力供給が追加的なインフラなしでは実現できないことをしっかり伝えていかなければならない。人々の意見は大切だが、所与の期限内に議論を尽くし法的安全性を得ることが肝要。

以上がドイツの新エネルギー政策の概要です。ざっと訳出しただけなので読みにくいのはご勘弁。おまけに筋論と目標が前面に出過ぎて、冷静な分析というより決意表明的なニオイもします。明らかなのは、ドイツの方向性は脱原発を大前提にしていること。そして、そのことへの未練もなさそうです。

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さぁ、ここでジーメンスの登場です。ジーメンス曰く、自社こそが新エネルギー政策の牽引力になるとのこと。

低損失の電力配電網建設実績、スマートグリッドだけでなく電力貯蔵システムの開発や高効率なガス火力発電所の実績もある。また、炭酸ガスの捕捉と産業利用にも取り組んでおり、すべての分野における節電や効率的利用のソリューションを提供している。

実際ドイツの新エネルギー政策はジーメンスが参加する多くのプロジェクトによって支えられ、2011年3月11日以前から実行中。

風力発電では、2015年までに北海とバルティック海の8つの海上発電設備が稼働することになっていますが、そのタービンはジーメンス製です。これらの発電能力は2GW〔200万世帯の電力以上)。現在、ジーメンスは10,600個の風力タービンを設置中で、世界中の総発電能力は16GW前後。(有田注:ジーメンスはデンマークの風力発電会社も買収済)。また、2015年までには高電圧直流送電網が海上発電とドイツ本国を直結するでしょう。

2011年3月には世界で最も効率の高いコンバインドサイクル発電所、Irsching4が商用発電開始。この発電所では天然ガス中の60%のエネルギーを利用でき、発電能力560メガワットはベルリンのような大都市に電力を供給できる。また、迅速な稼働ができることで、再生可能エネルギーによる発電の変動にすぐに対処可能。

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要するに、ジーメンスは風力発電、ガス発電などの発電設備に加え、新しい電力配電網の創設整備とそのソフトウエア開発というシステム全体への取り組みによってドイツの脱原発エネルギー政策を実現していくことを解説しています。素晴らしい!

なぜフクシマを経験した日本で同じことができないのか。なぜフクシマの艱難辛苦を国家的なものとして受け止められないのでしょうか。なぜ政治家や経営者の中には、いまだに原発が必要だ等と考える者たちがいるのでしょうか。

モノが見えないのか、時代の転換点が認識できなのか。日立や東芝などはジーメンスの爪の垢を煎じて飲んで欲しいし、日本の政治家も真摯にドイツの政治家に学んで欲しいけど、無理な注文なのでしょうか。また、メディアが権力の見張り番の役目を果たしていないことも3.11で明らかになってしまいました。がっかり。ホンマにがっかりで哀しいなぁ。

さて、ここで疑問が浮かんだ人がいるかもしれません。ジーメンスの将来事業にはソーラー発電関連のものがありません。ジーメンスといえば、10数年前はソーラー発電分野でも世界のトップ企業だったのに現在は手を引いています。何故なのか。実はそこにシャープなど日本企業の凋落の一端が見えてきますし、日本のメガソーラー計画の怪しい未来も窺えますが、それはまた別の話(機会があればいずれまた)。