ジーメンス 原発から撤退した世界最大級の電機会社

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日本ではあまり馴染みがないかもしれませんが、ジーメンスは売上高約900億€の世界最大級の電機会社です(日本では英語読みでシーメンス、でもドイツ本国ではジーメンス)。日立(連結売上9.3兆円)や東芝(同6.4兆円)等と較べてみると、現在の円高水準ではそれほど変わらない規模となってしまいましたが、事業内容や利益水準は大きく異なります。

最大の違いは原発事業からの完全撤退。ジーメンスは既に2001年に原発事業から撤退。その後ドイツの政権交代もあり、一時は原発事業へ逆戻りかと云われていたところ、3.11のフクシマで原発から完全に手を引く覚悟を新たにしたそうです。とくに半年前に公表した文書、「One year after Fukushima – Germany’s path to a new energy policy」は圧巻。

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拙宅の屋根上にあるソーラーパネルはジーメンス製です。なぜこのパネルを使ったかというと、実施設計をお願いしたエルガの桜井さんのお薦めがあったのと、製造には原発電力を一切用いていないという売り文句に惹かれたから。原発電力を使いたくないというわが家の趣旨にぴったりですもんね。

ところが、ジーメンスはその1998年前後から非中核事業を売却もしくは上場させて分離させ始めます。今から考えると、拙宅のソーラーパネルはまさに最後の最後のモノだったようです。

現在残っているのは、エネルギー部門(タービン発電、風力発電など)と産業部門(オートメーションなどの産業ソリューション)に、ヘルスケア等々と世界で勝てる事業で、かつしっかり稼げる分野だけという状況です。

興味深いことに、エネルギー部門にはソーラー発電が含まれていません。現在のCEOミハエル・ズイス氏によると、ガス火力と風力発電が現代社会でのファーストチョイスだとのこと。

実は数年前ジーメンスがソーラーから手を引いたのを知った時、なぜ? まだまだ十分商売になるはずだろうに・・・と訝しがったのですが、シャープなどのソーラー事業が破綻してしまった今となってはジーメンスの「読み」は的確だったといわざるを得ません。要するに、儲からないモノからは撤退するというわけでしょう(この話はいずれ)。

そして、原発事業。ジーメンスが撤退した理由は経済性だとCEOのズイス氏は明言しています。曰く、初期投資が巨額で、建設から運転まで10年以上かかる。うまく運転させたとしても今度は廃炉コストが必要だ。さらには安全性の要求が高まり、一層のコスト高。民間のバランスシートで原発事業を行うのは厳しい。そんな苦労をする位なら、もっと投資回収できるフォーカスすべき市場はたくさんある・・・というわけです。その結果として、現在のタービン火力と風力発電への傾倒があるようです。

ドイツ流の合理性というか、まっとうな企業判断というべきなのか。安全性より経済性の話が先に立つのは少し違和感もありますが、それでも原発事業からの撤退という決断は素晴らしい。ダイヤモンド誌(2012/7/12号)によると、日立やパナソニック等が目指す企業イメージはジーメンスだということなので、その哲学や方向性をしっかり学び、同じく原発から一切手を引いて欲しいものです。

この話がホンマかと思う向きへ。
ジーメンスが原発事業から完全撤退する話は、「One year after Fukushima – Germany’s path to a new energy policy」(フクシマから1年 - 新しいエネルギー政策へのドイツの道筋)なる文書で明快に示されています。この文書はシーメンス日本のサイトには掲載されていないようで残念。・・・ということですから、いずれこちらで要約して紹介しようかとも考えています(別稿)。

*参考 :週刊ダイヤモンド(2012/7/12号)