脱原発30年というマヤカシ

3.11

本サイトでも紹介していました鹿児島県知事選が昨日投開票され、現職の伊藤氏(64)が3期目の当選を果たし、脱原発を訴えた向原候補は残念ながら及びませんでした。得票数はダブルスコアの差ですが、あの保守的な地で、連合他ほとんどの県内組織が原発推進の現職を推す中で、よくゾそこまで得票数を伸ばしたな〜というのが私の印象です。

・・・

まず開票結果。鹿児島県選管の最終数字は以下の通り。

◇鹿児島県知事選開票結果(9日午前0時5分、選管最終)
394,170 伊藤祐一郎  64 無現〔当選)
200,518 向原 祥隆  55 無新

文字通りのダブルスコアで現職が新人候補を圧倒しました。・・・と普通はいうのでしょうが、九州の、それも鹿児島の政治的状況からすれば、新人候補の大躍進といってもいいのではないかと私は思います。

というのも、現職のバックには民主、自民、公明、国民新党が相乗りで控え、県農民政治連盟や連合鹿児島までついていたというのですから、新人候補に投票したのは何の組織にも属さない一般県民だけという構図だったからです。つまり、利権絡みの組織 VS しがらみのない一般県民の選挙だったというわけ。

問題だったのは、どちらも脱原発候補だと喧伝する南日本新聞みたいなメディアの存在。たとえば、選挙直前の新聞には以下のような記事がありました。

東日本大震災後に国内原発全停止を経て関西電力大飯原発(福井県)が再稼働してから立地県で初の知事選となる。伊藤氏は、安全確保や地元理解を前提に再稼 働を容認。3号機増設計画同意は撤回せずに凍結とする。脱原発の立場を取るが、実現に30年かかるとする。“県民投票”と位置付ける向原氏は再稼働を許さ ず、即時廃炉を訴える。「30年かかる脱原発はまやかし」と批判。増設計画は同意撤回を強調している。(南日本新聞 2012/7/6)

あらら、どちらも脱原発の立場です。ホンマかいな。現職は実現に30年かかるといい、新人は即時廃炉を訴え現職の言い分はまやかしだと批判しているというのです。これは非常にわかりにくい。

これを読んだ県民はどう判断するでしょうか。どちらも脱原発なんだ、じゃ現実路線?の現職でいいじゃないかという話になってしまったのか。新人候補の向原氏はどこまで本マヤカシを解き明かし、県民に向けられた洗脳を解くことができたのか。保守的色彩の強い地域ですから、変化を嫌うというのもあったのではないでしょうか。

選挙が終わったこともあり、私が代わりに、どこがマヤカシかを解説しておきましょう。

まず、「30年かかる脱原発」はその道筋がなければ絵空事。いつ止めるのか、代替手段はどうするのか、それをどう計画し、如何に推進していくのか等々、そういった話は現職から提示されたのでしょうか。なければ口先だけのリップサービス、悪くいえばマヤカシです。

対する向原候補の「即時廃炉」には道筋はいりません。ただ止めるだけです。問題なのは代替手段をどうするの?という点だけ。でも、これはそれほど深刻な問題ではありません。

一般論でいきましょう。昨年来の原発停止でも電気が足りないという状況が生まれていないことからわかるように、原発なしでも日本はやっていけるんです。今年関西電力が15%削減で計画停電云々というのは、昨年の東電が停電を脅しに使ったのと同じ手法でしかありません(本当に足りないというのは関電の発表でもわずか58時間だけ)。

さらにもう1つ。「30年かかる脱原発」は現職の任期をはるかに超えた時間スケールとなるので、云った者には責任感の認識すらないでしょう。彼の死後の話になるかもしれない話を約束するのは無責任というところです。〔注)

つまり、現職が打ち出した「30年かかる脱原発」とは、おそらく相手候補との違いを曖昧にするために編み出した選挙用のものでしかありませんでした(現職を最初から推進候補として扱っていたメディアもあり)。メディアはそれをきちんと咀嚼して伝えようと努力せず、利権組織行動を是とする人たちは知らない振りをし、多くの県民もコトの理解が及ばなかったのではないでしょうか。

いずれにしても現職は選挙時に九州電力川内原発の増設は凍結と約束したわけですから、これは守ってもらいましょう。既設分の再稼働については、彼のいう「30年かかる脱原発」にどう摺り合わせられるのか、そこをきっちり監視しながら、事ある毎に再稼働反対というしかありません。

〔注)原発を止めて、その後どう代替手段と置き換えていくかという細かい議論を始めれば、数年以上のタイムスケールが要ることは私にもわかります。でも、30年はかかりません。資産回収年限を考慮したという欠点をもつドイツの対応でも2022年までに廃炉にするというのですから、30年というのは「脱原発なんかどうでもいい」というのと同じ意味。現実問題を考慮しても数年で十分(核廃棄物問題は別途)、私はそれよりも、まず止めて、それから考えれば十分だという立場です。