原発関連本を少し

.Books&DVD… 3.11

原発関係の本の紹介。私の手元にあるもので、ネットではあまり話題になっていないものがまだまだあります。値の張るものもありますのが、お近くの図書館などで見つけたら是非ご一読下さい。

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放射線被曝の歴史 中川保雄 (技術と人間 1990)

分野が違うからと思ってツン読状態にあったのを発見したのが事故直後。今回の東電原発事故が起きて2回は読み直し。この本を読まずして被曝を語ることなかれという位の名著ですが、絶版状態で薦めにくいなぁと思っていましたところ、どうやら夏以降に再版されるとか。出たら是非ご一読下さい。今回の危険性の大きさに、私などが今まで水道水中の有害物質で議論してきた話が全部霞んでしまいました。

核の目撃者たち     レスリー・J・フリーマン (筑摩書房 1983)

バーテル、ゴフマン、スターングラスなどの学者だけでなく、核開発現場で働く労働者等をとりあげ、それぞれの人生を紹介しながら核の危険性を暴き出したもの。取材記録を物語風に起こしています。核の平和利用というものが如何にマヤカシであるかという聴き取り記録にもなっています。出版年は古いのですが、内容は全く古さを感じさせません。


反核シスター―ロザリー・バーテルの軌跡反核シスター M・エンゲルス (中川慶子訳 緑風出版 2008)

核開発に反対する理論を語る時に欠かせない研究者、ロザリー・バーテルの軌跡。シルクウッドさんのように殺されかけた経験もあり。彼女の尽力が、原発周辺の住民の健康を守るだけでなく、1988年の「被曝兵士補償法」の成立にも結実しています。ところで、シスターという呼称は本文中にもあるように、当局筋が彼女を学者ではない素人のように印象づけるために用いたものですから、邦訳題名はバーテルに失礼でしょう。

チェルノブイリ事故による放射能災害 今中編 (技術と人間 1998)

京大原子炉実験所の今中哲二さんが編集した国際共同研究の報告書。チェルノブイリ原発事故の被害はほとんどなかったかのように喧伝されていますが、それが事実ではないことを明快に指し示す現地調査報告書。書いたのはベラルーシなど現地の研究者と今中さんら。これを読むと、チェルノブイリに行ったことのあるとか前置きしつつ安心を訴える学者がいかにウソツキであるか、よくわかります。

低線量内部被曝の脅威―原子炉周辺の健康破壊と疫学的立証の記録低線量内部被曝の脅威 J・グールド (肥田他訳 緑風出版 2011)

米国の原子炉や各施設周辺地域での健康調査を元に乳ガンの発生との関係を疫学調査した報告書。資料的価値は高いのですが、内部被曝を勉強したい人には別書のほうがいいかも。

敦賀湾原発銀座 [悪性リンパ腫]多発地帯の恐怖 (宝島SUGOI文庫)悪性リンパ腫多発地帯の恐怖 明石昇二郎 (技術と人間 1997)

グールド本が米国の話なら、日本でも被害を丁寧に追跡した人がいます。それがこの本の著者。福井県の原発周辺における悪性リンパ腫の発生状況を追って福井県庁との丁々発止。原発がコワイのは何も大事故の時だけではないことを示す労作です。私思うに、疫学調査とは明石さんらが行ったような調査のことであって、最初から結論ありきのような調査を行う「疫学者」はきわめて恥ずかしい(先に示した重松逸造らを思い起こしていただければ幸いです)。

原発崩壊 増補版-想定されていた福島原発事故原発崩壊  増補版  想定されていた福島原発事故 明石昇二郎 (金曜日 2007/2011)

明石さんといえば、東電福一原発事故が起きて追加増補された左もお薦め。

東京電力・帝国の暗黒東京電力・帝国の暗黒 恩田勝亘 (七つ森書館 2007/2011)

知る人ゾ知る「週刊現代」の原発ライターが描き出す東京電力の利権構造の数々。今回の東電事故で「週刊現代」の記事が質量ともに圧倒的に優れているのは彼を中心とするライターがいるおかげ。新版では今回の事件に対する記述も追加されています。

ブラック・スワン[上]―不確実性とリスクの本質私が一番お薦めしたいのはこれ。ナシーム・タレブの『ブラックスワン』。英語版で読んだ時の感想は既にお伝えしていますが、今回の事故が起きた後、日本語版で読み返してみました。やっぱり母国語で読むのはいいですね(苦笑)。タレブさんは金融危機について記載しており、原発事故について触れているわけではありません。でも、理屈は同じ。ガツンとくる人が多いはずです。

ブラック・スワン[下]―不確実性とリスクの本質(タレブ本にはこんなことは書いてありませんが)私流に解釈するとこうです。既に2匹のブラックスワンがいました(生息地はスリーマイルとチェルノブイリ)。当局のいう原発安全神話にマヤカされた公衆は異国にブラックスワンがいるらしきことは知っていても、自国にまで生息していることは理解できません。ブラックスワンがいるんだと一部の人がいくら訴えても国も企業も受け付けない。裁判所も同じ。一番厄介なのは同胞である民が、そんなものがいるはずないじゃないかと信用してくれないこと。だって、スワンはホワイトなんだもん。

強さと脆さでも、不幸なことに福島にもいたのです。いや、浜岡とか柏崎とか福井にもたくさんいるのですが、まだ多くの人が気づかない。困ったことに、ブラックスワンがウヨウヨ生息していたことがわかった今でも、フクシマの後始末をどうしたらいいのか未だにわからないのに、ブラックスワンの生息を守ろうとする人たちがたくさんいます。なぜ?……そんなことを考えさせてくれる内容です。
ついでにいえば、リスク管理とかリスク何とか論なんてのはタレブのいう「月並みの国」の話なので、「果ての国」では漫才のネタでしかあり得ない。それは既に金融危機で実証済み。でも未だわからない人が大勢いるのは学習能力がないせいか。

とりあえず、こんなところで。