タレブのコイン 起こり得ないことが起きる時

.opinion 3.11

ここにコインがあります。99回投げたら全部表でした。次に裏が出る確率はいくらでしょうか?

(1)50%   (2)1%もなし     
・・・・・・

コインには表と裏があります。どちらも出る確率は50%なので、答は1……と考える人が多いかもしれません。

たしかに教科書的には1が正解かもしれません。でも、ちょっと待って下さい。99回も表が出る確率を考えてみると、そんなのが起こるなんて常識的にはあり得えません。とても偶然とは言い難い。とすると、いかさまコインである可能性を疑わなければなりません。だから答は2というわけです。(注)

それはリクツに合わないって? そうです。理屈には合いません。でも、理屈とは何でしょうか。

この場合、私たちは完全なコインを想定し、表裏が出る確率を半分づつだと考えます。でも、その前提条件が正しいのかどうか、考えたことがありますか?

実際のところ、世の中にはマヤカシ、ゴマカシ、イカサマなんて、ぎょうさん潜んでいます。理想的条件が成り立つ現実社会ってどこにあるんでしょう。本当に確率的な発想をするのであれば、あり得ないような事象が起きたら、そのコインは怪しいと思うべきです。そう思わない人は、誰かのカモになるかもしれません。

先のポンプ2台の同時故障は、東電や原子力関係者の当初の計算では100万分の1の発生確率でした。斑目氏もそんなのは起こり得ないと考えていました。でも、起こり得ないと思っていたことが現実には起きた。

だとしたら、前提条件が間違いだったのではないか、と考えなければなりません。前提条件に見逃しや見落としがなかったか、独立事象ではないのに独立だと間違っていたのではないか、そんなことも振り返ってみなければなりません。それが科学的対応です。だって、想定計算や前提条件にミスがあるのを放置して、「想定外だから仕方なし」としてしまうのはあまりにも無責任です。計算は正しかった、でも現実の方がおかしい、そんなものは起こり得ないはずだ等と言い訳するのは愚かの極み。それとも最初からインチキ計算だったのでしょうか(それならあり得る)。

そーいえば、ノーベル経済学賞学者2人を擁したLTCMファンドが1998年に破綻した時に、100万分の3の危険性でしかなかったロシアデフォルトが起きたから等といって自分らの正当性を主張しました。それは彼らが勝手に想定した前提条件で現実を捉えていただけの話。先の議論と同じですね。その証拠に、彼らは2007年のリーマンショックの時にも別のファンドを破綻させています。彼らの行う机上計算が如何に間違っているのか、ちっとも反省していなかったということ。どうやら確率計算ができるかどうかは賢さとは別世界の話で、誠実かどうかの違いなのかもしれません。

今回の東電原発事故を受けて、原子力施設の安全性計算ははたしてどう変わるでしょうか? 電源ラインを確保すれば、また100万分の1の事故確率なんて言い出すのでしょうか? だとすると、またどこかで似たような事故を繰り返すでしょう。もういい加減に現実を見てねと云いたいなぁ。

一度起きたらこの世の終わりかと思うような事態を招く技術なんて使って欲しくない。事故が起きたら取り返しがつかない事態を招く技術なら、はじめから採用しないルールこそ必要だ、と云いたいくらいです。実は、これが予防原則の基本的考え方だったりします。

(注)質問はタレブの『ブラックスワン』第9章の内容から作成。私が出した答もタレブさんが明快に説明してくれています。