最後の授業

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最後の授業 ぼくの命があるうちに DVD付き版40歳半ばで膵臓ガンが見つかり、余命いくばくもない……そんな死の宣告を受けたら、あなたはどうしますか。

運命に打ち拉がれ、誰かを呪うのか、それとも残された日々を有意義に過ごすことができるのか。この本は後者。それも飛びっきり前向き。
著者はランディ・パウシュ、カーネギーメロン大学のVR研究者、それと聴き取りを文章化したJ・ザスロー。

実はこの本、近所の本屋さんで偶然発見。ネット書店は手軽でいいのですが、ネットでは実本のオーラはまず伝わってきません。表紙や装丁の雰囲気で本を選ぶというのもたまにはいいね。

この本のどこが面白いか。
病気で死に行く者が書いた本はそれなりにあります。自らの人生を振り返り、最愛の人たちに何か残せるモノはないかと探しながら、自分の生が誰かの役に立って欲しいと望んだり、人によっては人生訓みたいなものを抽出していく・・・多くのパターンはそんな感じでしょうか。そういう意味では、この本も同じようなものかもしれません。でも中味が非常に興味深く、そして考えさせられる内容満載でした。

まず、著者が生きた証が濃密に詰まっていること。子どもの頃の夢をどうやって実現してきたか、その下りを克明に紹介しながら、夢の実現を諦めるな、諦めなければいずれいつかなんとかなる、なんとかならなくても別の効果もある、という主張が伝わってきます。

こう書けばありきたりですが、説明方法が巧いので見事に引き込まれます。とくに自分を遮る障壁を「赤い煉瓦」にシンボライズして、それを乗り越えるにはどうするか、どうしたら上手くいくのかという説明展開はわかりやすい。

一方で、彼は夢を叶えるには一人の力ではできなかったことを明らかにします。つまり、1人の夢は一人ではなし得ないということを、学校の先生、父親、おじさん、フットボールのコーチ、お連れ合い、大学の恩師等々を引き合いにして説明するのです。そして、自分もそのお返しで、他の人たちの手助けをしてきたことを述べています。人の繋がりが夢の実現に不可欠であることを説明する、ここらの箇所は幾分の自己顕示欲を匂わせつつも何かしら暖かい。

また、彼自身が語る人生の知恵の数々は実に面白い。とくに、こどもの頃ディズニーワールドで転倒して壊したお土産・コショウ瓶の下りは、まるで仏教説話のようでもあり、これだけを読むだけでも本を買う価値あり!(と私は思う)。

最後の大学講義では非常に前向きでポジティブなので、50歳を前にして死にいく悲壮感が感じられないなぁなんて思っていると、本の中に死の宣告を受けた時ベッドで泣き続けたという下りあり。やっぱり、そうでなくちゃ。マシンじゃないもんねと妙に安心。人前では決して涙を見せない強さ、あるいはもの哀しさを改めて感じ入る次第です。

本には、大学で行った最後の授業のDVDが付属したものとそうでないものとの2種類ありますが、DVDつきがお薦め。映像のエッセンスはYouTubeでも観ることができます。ちなみに著者は2008年夏に亡くなったそうです。パウシュさん、いい本を残しましたね。ありがとう。DVD字幕を早々に作って下さった出版社にも感謝。