フッ素入り水道水はご勘弁

Water

  水道水にフッ素を添加しようという話が、昨年あたりからまたぞろ復活してきた。推進源は日本歯科医学会とその周辺らしい。しかし、水道水を供給する側の厚生省や自治体はあまり積極的ではなさそうだ。それもそのはず、フッ素入り水道水が厄介なことをよく知っているからである。
 

 兵庫県の宝塚市や西宮市などで一九六○年代後半から七○年代にかけて、歯にまだら模様ができたり、褐色に変色するという奇妙な症状、いわゆる斑状歯が顕在化した。
  宝塚市では専門委員会などを発足。その結果、斑状歯の原因が水道水中のフッ素であることを認め、七五年に浄水場にフッ素除去装置を設けたり、一定条件を満たす被害者については医療補償を行ってきた。しかし、行政の対応に満足できなかった市民の中には国家賠償を求めて裁判に踏み切る人たちもいた。神戸地裁判決では水道事業体の過失を認めたが、これは残念ながら例外。その他の大阪地裁や大阪高裁、最高裁の控訴審では、フッ素入り水道水が斑状歯を引き起こした事実は認定したが、水道の公益性を重視し、水道当局の損害賠償責任を否定した(九三、九八年)。

  奇妙なことに、フッ素添加水道水を推進している人たちはむし歯予防というプラス面を強調するだけで、マイナス面の斑状歯を軽視しているようだ。既に米国などでフッ素添加が実施されているのも事実だが、緑茶などでフッ素を摂取しがちな日本人特有の食生活の傾向を無視してしまうと、フッ素の過剰摂取にもなりかねない。実際のところ、現在の水道水質基準(フッ素は○・八㎎/ℓ)を変更しない限り、フッ素添加は無理であろう。
  むし歯を防ぐなら歯磨きの励行で十分。虫歯予防になるという理由だけで、水道水にフッ素のような添加物を入れるのは、必要のない栄養ドリンク剤を無理矢理毎日飲まされるようなものだ。勘弁してもらいたい。水道事業体がやるべきことはフッ素添加ではなく、他にたくさんあるはずだ。

(週刊金曜日 303号 2000/2/18 所収)

*「むし歯を防ぐなら歯磨きの励行で十分」という箇所について、ある歯科医の方から暴論であるというご意見を頂戴しましたが、これは「むし歯を防ぐなら水道水のフッ素添加などはいらない」という意味を書いただけです。フッ素塗布によるい歯科医療を云々しているわけではありません(その是非については私はわかりません)。

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