信楽焼 デンバー プリツカー 

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三題話。信楽焼は滋賀県信楽の焼きもの、デンバーは米国コロラド州のデンバー、プリツカーは建築のノーベル賞とも云われるプリツカー賞のプリツカー。さて、この3つを繋ぐものははたして?

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先日、神戸三宮のそごうへ陶芸家・小林勇超さんの個展に出かけました。拙宅を訪れたことのある人ならご存じの通り、家の中に信楽焼の壷や花瓶などがいろいろ、大皿小皿小物類にも信楽焼の陶器がたくさんあります。そのほとんどが小林さんの作品です。

ひょんな縁で小林さんの不言窯を訪れたのは約20数年前。作品に惹かれたのはもちろんですが、小林さんご夫妻のお人柄にも魅せられ、それ以来何かコトある毎にご自宅や個展を訪問してきました。

今回小林さんの個展に出かけると最近デンバーに行ってきたとのこと。聞けば、デンバーのアートコレクターの招待だったらしい。

デンバー美術館は昨年頃から少しずつ信楽焼のコレクションを揃え、今秋「FROM THE FIRE」と題する展覧会を開催しました。その展覧会は日本の陶芸作家多数の作品が展示され、小林さんの作品も十数作品が展示されたとのこと。

くだんのコレクターは小林さんの大壺(高さ1m近くあるもの)等を買い求めた上、いくつかの作品をデンバー美術館へ寄贈したらしい。調べてみると、そのコレクターとはロバート・ケスラー夫妻のことで、デンバーを中心にホテルやレストラン等を経営するとともにアートにも造詣のある人でした。

じゃ、なぜそのケスラー夫妻は小林さんの陶器に目を付けたのか。ご夫妻が京都を訪れた時に泊まったのがハイアットホテル(東山区三十三間堂横)。そこで見た大壺に興味を持ち、その作者に会うため信楽まで出向いたということらしい。その大壺はハイアットのオーナーであるプリツカー家が小林さんに依頼して作ってもらったものでした。

プリツカーといえば、建築のノーベル賞と云われるプリツカー賞のプリツカー。たとえば、金沢21世紀美術館の設計を手がけた妹島和世さん+西沢立衛さん(SANAA)が2010年の受賞者だと云えば、少し親近感が湧くのではないでしょうか。

プリツカー家の本業はハイアットホテルの経営です。彼らはプライベートジェット機で訪日し、京都に滞在する時に別荘代わりに使うのが京都のハイアット。そのプリツカー家が小林さんの大壺をいたく気に入ったらしく、彼らが出向く京都の某料亭にも同じような大壺を置いており、食事の際にも愉しめるようにしているんですから、大金持ちって趣味が徹底していますな(半ば呆れる)。

要するに、プリツカー家の京都ハイアットホテルにあった信楽の大壺がケスラー夫妻に繋がり、それがデンバー美術館の企画展にまでリンクしていったわけで、国境を超えたアートな繋がり方が妙に面白い。

世はグローバルグローバルというけど、なかなか実感がわかない人も多いはず。でも、世界を股にかけているような人たちからすると日本や米国も、そしてアジアやヨーロッパのどこにも国境はありません。そんなことを感じさせるリンケージに、このままで日本は生き残っていけるのかどうか、ちょっと気になった次第です。