シャツとチップ

.opinion fashion

昨年だったか、ラジオで面白い話を聴きました。イタリア人はシャツの下には何も着ないと日本では云われているけど、自分の旦那(イタリア人)も友だちのイタリア人も皆下着を着ている、とのこと。いたとしても伊達者の話じゃないのか(概意です、念のため)。話していたのはヤマザキマリさん、「テルマエロマエ」の原作者。伊達者が下着なしというのはありそうですが、皆が皆そうだとはいえないということみたい。

・・・
望遠ニッポン見聞録 (幻冬舎文庫)

「シャツは下着だ、だから下着はつけない」等という話を聞いたことはないでしょうか。小洒落たファッション評論家やアパレル関係者の中には今でも物知り顔でそんなことを説明する人がいます。自分で試してみると暑い日にはたしかに心地良いけどすぐに汗ぐっしょり。冷房の効いた処へ入ると風邪を引きそうになってしまいます(苦笑)。

ホンマにイタリアでは下着なしがスタンダードなのでしょうか。ずっと疑問に思ってきましたが、イタリア在住かつイタリア人の連れ合いがいるヤマザキさんは冒頭のように否定しました。あらら。

今まで聴いていた話と違うゾ、どちらが本当なのか。論理的に云えば「反証が1つでもあれば命題は否定できる」わけですから、この件はヤマザキさんに分ありです。だって下着を着るイタリア人がいる限り、イタリアでは「シャツの下に下着なし」という話は標準かどうかは曖昧になりますし、ひょっとしたら勝手な決め付けかもしれません。

シャツの下に下着が透けるのはお洒落ではないので洒落者が下着を着ないというのはよくわかります。そういう人を見かけたことがあるからこそ、「イタリア人はシャツの下に云々」という話が出てきたのでしょう。でもそれが彼の地の標準なのかどうか。最近はイタリアでもエアコンが効いた場所は増えているはずなので、そうであれば尚更下着なしというのは辛いはず。


国境のない生き方: 私をつくった本と旅 (小学館新書)

問題はそういうシャツの問題ではなく、「イタリアでは云々」とか、「欧米ではこうだ」等という話にはきわめて怪しいものが多いということ。決めつけ話は疑った方がいい。

1つ例を出せばチップ。海外旅行に行く時、レストランやタクシー、あるいはホテルなどでチップをいくらにしたら良いのか、あれこれ悩んだことがある人は多いのではないのでしょうか。結論からいえば、チップは不要です。ただし、料金にサービス料(本来のチップ)が含まれている場合に限り・・・。

不思議なことに、この国の旅行指南書には10%程度のチップを払うのが普通だとか書かれているものが多々ありますが、いったいいつの時代の話なのでしょうか。私が30年前ヨーロッパ7カ国(ベルギー、ドイツ、オランダ、オーストリア、スイス、フランス、スペイン)をブラブラした時チップについて聞きまくったところ、当時でも現地でチップの習慣はありませんでした。

理由は簡単。サービスチャージが含まれている代金に追加のチップはいらない、これが理屈です。ただし、レストランなどで端数の小銭を残すことはある、クレジットカード払いなら端数を切り上げて数字を書き込むこともある等などという話も聞きましたが、これらは見栄や格好づけの類です(注)。

もともとチップの制度はサービス料がなかった時代の名残で、ベッドメーキングやフロアサービスを担うアルバイトの人たちに心付けをするという類のもの。サービスチャージがないアメリカ合衆国や香港等では今でも残っていますが、ヨーロッパでは既に30年前には消えていました。


日本でなぜチップの話が広まったかといえば、おそらく戦後の進駐軍や米国の方式を世界標準と勘違いしてしまった者たちの思い込みではなかったのか。先の「シャツの下には云々」の話といっしょです。

いやいや今でも外国でチップは必要だという人はいるかもしれませんが、そうだとしたら日本人は金満国家だからムシってもいいという外国人たちの肩を持っているだけ。必要のないお金を払う民族は世界のカモとしか思われません(きっぱり)。

要するに、この手の聞き知ったような話は一度疑ってみるのがベター。疑問があれば自分で調べる。そうでないなら日頃アンテナを張っておきチェックするのが肝要です。最近ヤマザキさんの本を数冊読んでそのことを思い出した次第(読んだ本にはシャツの話は出ていませんでした、念のため)。

(注)通常サービスの範囲を超えた個人的なお願い事をしてもらった場合には心付けをする、そういう習慣は世界共通です。そこらは柔軟かつエレガントにどうぞ。