最近のプール事故関連裁判の状況(1998年)

プール事故

以下のレポートは、スイミングプール水質管理懇話会(体力健康新聞主催)1998年にて発表したものであり、他に転用する場合は事前にご連絡下さい。

今年も水泳プール関連の裁判判決が数件行われています。その紹介と要点について整理してみると、まず飛び込み事故ではプール管理者側の設置管理責任を重く扱い、被害者の過失を全く考慮しないものが出ていること。排水口での溺死事故についても、プール管理者側の責任を重視して、従来よりも過失相殺の比率を減じる傾向が確定したと言ってよいと考えられます。プール管理者にとっては、これらを十分に踏まえて今後のプール運営にあたっていかなければならないのではないでしょうか。

キーワード:過失相殺、設置・管理責任、日本水泳連盟のプール規則 

1)鹿児島、プール排水口裁判で判決 98年2月20日
1994年8月5日、鹿児島県金峰町田布施小学校プールで遊泳中、排水口廻りで遊んでいた小学校5年生男子生徒が排水管に膝を吸い込まれ、いったん救助されたが死亡。被害者両親は、プール排水口の格子フタをボルト等で固定せずに放置していた学校側の「公の営造物であるプールの設置・管理の瑕疵」を理由に提訴。判決では、本件プールが「通常有すべき安全性を欠いており」、事故の主因は被告側にあるとした。しかし、「危険な遊び」を行っていた被害者とその監視を受け持っていた母親らの責任を過失相殺の対象とし、原告側に4割の責任を負わせた。被害金額は、医療費1万円弱、葬儀費用120万円、逸失利益3426万円、慰謝料1800万円。
2)大阪、プール飛び込み事故で和解金1億5千万 98年2月24日
1994年7月23日、大阪府高槻市立中学校2年男子生徒が小学校の水泳指導中にプールに飛び込み、底部で頭を内両手足が麻痺。本人と両親が市を相手に2億円の損害賠償を求めていた裁判で、2月24日、市側が原告側へ総額1億4900万円を支払い和解することで合意。

3)石川、プール飛び込み事故の裁判で1億5700万円の賠償命令 98年3月13日
1993年7月、石川県松任市の市立中学校の水泳授業中、プールに飛び込んだ男子生徒が首の骨を折って手足などの障害。判決によると、飛び込み台前方5mの水深が1.1〜1.2mで、飛び込み台は水面から40cmの場所に設けられており、92年の日本水泳連盟のプール公認規則に違反しており、設置管理上の落ち度があったとしている。過失相殺なしで、ほぼ原告の請求通りの賠償金となった。

4)静岡、プール排水口裁判で判決 98年9月30日
1995年8月4日、静岡県西伊豆町仁科小学校プールで、小学校5年生男子生徒が夏休み中のPTAプール開放中にプール底の排水口に吸い込まれ溺死。被害者ははずれていた排水口フタを直そうとして中に入り込んだ模様。被害者の両親は、西伊豆町に対してプールの設置管理の瑕疵(国家賠償法2条1項)、静岡県に対しては町を指導・監督する権限の不行使を理由に裁判に訴えたが、判決では西伊豆町の責任のみ認定した。賠償金額は逸失利益約3487万円、葬儀費用120万円、慰謝料1600万円と算定し、被害者側の過失相殺を2割とした。排水口裁判では最も被害者の過失相殺率が少ない。

5)大阪、プールでの皮膚障害の訴えを却下 98年9月30日
1996年7月12日、大阪府箕面市営プールで男子(10歳)が遊泳後、全身に紅斑が生じた。近隣の病院で診察したところ、接触皮膚炎と診断され、プール水による刺激が原因である可能性を示唆された。本人と親権者である両親は市のプール管理上の瑕疵を問題にして提訴。被害の実証に一部不明確な点があったせいか、判決は棄却。

6)奈良、民間プールの飛び込み事故裁判進行中 
 1995年12月4日、奈良県某スイミングプールにおいて成人男子23歳がプール飛び込み時に障害。プール水深は約1.2m、ただし飛び込み台は満水時水面から45cmの位置に設置されている。現在、係争中。つい先日、有田が原告側意見書を作成。