人権とは?

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人権とは何か。歴史的な解釈の変遷や法的な定義を並べ立てたところで正体はなかなか見えてこないのではないでしょうか。要するに、知っていそうでほとんどわかっていない、簡単そうで実は簡単ではない問いです。ちょっとお堅い話ですが大事な話。

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人権とは何か。Wikiを覗くとなかなか難しい。人権侵害がどうのこうのという言葉を時々聞きますが、この場合、人としての社会的権利が侵害されたという意味なんですが、社会的権利とはいったい何でしょうか。法的に認められた権利なのか、それとも法制度を超えたところに存在する自然権のようなものなのか。そんなことを考え出すと理解の程度は怪しくなってしまいます。

THIS IS JAPAN――英国保育士が見た日本そんな中、実に興味深い解釈例に遭遇しました。それは昨年末読んだブレイディみかこさんの『This is JAPAN』(太田出版 2016年)の中で、です。著者はアムネスティ・インターナショナル日本の元事務局長、寺中誠さんへの取材聴き取りを通じ、寺中さんの説明を引きながら人権について考えを紹介しています。

寺中さん曰く、「日本には人権政策がほとんどない・・・」。また、日本人に人権意識が根付いていないのは「国民性の問題ではなく、仕組みの問題」とも喝破しています。どういうことでしょうか。

私たちは誰でも資源(リソース)に依存して生きている。リソースとは財力であり、あるいは人脈であり、または身体能力であったり語学力であったりと私たちが生きていく上で持っている資産のようなモノだということらしい。

彼曰く、それら資源が消えることもある。お金もそうだし健康もそう。そうなると普通の生活や行動が送れなくなる。ところが、そういう資源がなくなったとしても最後の最後まで残るのが人権だ、というわけです。


要するに、人がいろいろ持っているものが全てなくなって、誰にも何にも頼るものがなくなった時、その底にあるのが人権。言い換えれば、社会には制度というバケツがあり、そのバケツにはけっこう穴が空いているので底で受け止めているのが人権だ、とのこと。これはわかりやすい。私が過去に読んだ説明ではピカ一です。考えさせられること多々でした。

ブレイディさんの本では「人権という言葉を口にすると左翼だと云われる」との笑い話が出ていましたが、人権の考え方は右や左というイデオロギーとは全く関係ありません。日本の役所が云う人権意識とか人権教育がズレているのは、その背後に「義務を果たさないと権利はない」というような洗脳教育が潜んでいるのではないかと思っていましたが、ブレイディさんの本でその懸念の正体が判明。おかげで生活保護についても制度と人権とは別物だと改めて理解できました。そんなことを今頃になって理解するのも何ですが、私にとっては目からウロコな一冊です。感謝。そしてお薦め。

ツル蒔絵の椀@あらや滔々庵 2017/01