フィンガーボウル

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ひょんなことで銀座のステーキ屋さんが倒産していることを知りました。銀座4丁目にあった「銀座4丁目スエヒロ」です。42年前父に連れられて訪れた時、初めてフィンガーボウルを知ったのがここでした。

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たまたま何かの検索の折り、2014年に銀座スエヒロが倒産したことを知りました。ニュースタイトルは「ステーキの元祖・銀座スエヒロ、なぜ倒産?激安専門店台頭が呼ぶ、業界の世代交代」(Business Journal   2014/4.3)です。

〔出典はBusiness Journal )

その銀座スエヒロ、訪れたのは1975年の3月。滑り止めの私立大学に入学金(国立の保険)を収めるために上京した時、ちょうど上京していた父と待ち合わせて出かけたのがここです。

当時焼肉屋さんがまだそれほど流行っておらず良い牛肉は今から考えると随分高価だったこともあり、ステーキ屋さんといえば高級店というイメージでした。おまけにちゃんとしたレストランに入ったこともない19歳の私ですから、この店のハイソな雰囲気に出会って世の中にはこんなお店もあるんだなぁと怯んだ記憶が残っています。

それよりも何より一番の記憶はフィンガーボウル。食事中水の入った銀色のボールが出てきました。スズだかアルミだか銀メッキなのかわかりませんが、中にはレモンピールみたいなのが浮かんでいます。何これ?

出典は。意外とみんな驚く「フィンガーボール」の美しい使い方

いったい何だと躊躇していると、父が一言、「飲んだらいけんよ」。私「えっ、じゃ何?」、「手指を洗うためのもの」と父が教えてくれたのです。

お肉の食事の最中に手指が汚れてしまったのをこれで洗う、そういう目的の水を入れたボウルというわけです。名前がフィンガーボウルで、フレンチの慣習をステーキ屋さんが取り入れたのだと知ったのはずっと後のこと。

その父は2年前に他界しました。銀座スエヒロの2F窓際テーブル席で、フィンガーボウルを理解できずに困り顔の私に対し、おまえはまだまだ世の中を知らんやろうけど、これからいっぱいそんなことが出てくるゾ、みたいな優しい目付きだったことを昨日のように憶えています。銀座スエヒロの名前から、そんな思い出が蘇りました。そんな父にきちんと親孝行できず、申し訳ありません。

一時は隆盛を誇っていたステーキ屋さん、最近は食のグローバル化や為替事情もありで牛肉の値段は様変わり。「いきなり!ステーキ」みたいなお店も登場しているので古くからのステーキ屋さんの台所は大変だろうと推察できます。時代は変わる、、のステーキ屋さん版でした。

蛇足)スエヒロという名前のステーキ屋さんは全国にたくさんあり、発祥は大阪とのこと。そこからどんどん暖簾分けしていったのですが、お互いのお店どうしは資本関係がない独立店舗らしい。したがって銀座スエヒロが倒産しても他のスエヒロには関係ないようです。京都にもいつくかありますが、元田中付近の東大路沿いにあったスエヒロというしゃぶしゃぶ屋さんも同根じゃなかったんでしょうか(曖昧)。