曖昧なミルウォーキー事件死亡者数

Water

 1993年3月〜4月、米国ウィスコンシン州ミルウォーキーで起きた水道水経由のクリプトスポリジウム感染被害については未だに謎の部分あり。この事件について公式報告書を市当局が作成していないのもその一因です*1。

 被害実態については、電話調査による推計数で403,000人。これは確定診断による患者数ではないので、私は推定約40万人と表現することにしています。また、この人数は、ミルウォーキー水道給水人口約84万人の約半分が感染したことになります。このうち、入院患者は約4,400人と発表されていますが、問題は死亡者数。約100人程度と一般に言われていますが、実ははっきりした数字がないのです*2。
 この約100人が死亡という数字の根拠は次の通りです。州当局は通常の死亡統計から全クリプトスポリジウム症の死亡者数を調べ上げ、通常時の死亡傾向から水道水とは関係のない数を差し引いて問題の死亡者数を割り出そうとしました。その結果、48人が感染被害での死亡者数となりました。
 しかし、話はまだ終わりません。医者が死亡診断書を書くときに関連の記載をしなければ全く無関係な死となってしまいます。実際はクリプトスポリジウムに感染していても、医者の知識の欠如か何かでクリプトスポリジウム症だと表記されなかった患者もいるはずです。また、被害者の多くがHIV感染者であることを考慮すると、他の症状の方が強くてクリプト症が隠されてしまうケースだってあり得ます。そのことを州当局はAIDS患者の死亡統計からこの時期に突出した数があることを知っており、死亡統計にカウントされなかったクリプトスポリジウム症死亡者の存在を認めています。
 つまり、それらカルテに載らなかったクリプトスポリジウム症被害者数をどの程度上積みしたらよいのか、それが明らかにならないと問題の死亡者はわかりません。この上積み数を約50人前後だとする研究者や機関が多く、約100人程度が問題の死亡者数となるわけです*3。104人だという人もいたり、いや110人だという人もいたりするのは、加算数がそれぞれ違うためでしょうね、きっと。
 私見では、事件当時の水道水を飲んだ免疫不全患者で死亡した方々は多かれ少なかれクリプト感染被害を受けたわけですから、死亡主因でなくても全数加算していいのではないかと考えます。だとすると、現地のAIDS団体から聞いた110人以上という数字が妥当かもしれません。

参考文献: Cryptosporidiosis-associated mortality following a massive waterborne outbreak in Milwaukee, Wisconsin  Feb. 1996 (ウィスコンシン州衛生部公衆衛生局)

*1:この件で訴訟(数千件!)が提訴されているのが原因だという話あり。
*2:日本の厚生省とその取り巻きの方々が言っている400人は、ミルウォーキーの事件を調べていない勝手な数字で論外。
*3:この件について公式発表はなく、後半は有田の推測に基づく部分があるため引用等には御注意下さい。