改訂版クリプト指針の問題点(2)

Water

 改訂版のクリプト指針、「水道水源に係るクリプトスポリジウムによる汚染のおそれの判断」や「予防対策」、それに「クリプトスポリジウムの生物学的性状等について」等の個所の追加や語句訂正などがほとんどで、基本方針はそのままであることは既に前項で説明した通り。

 技術的な点はさておき、奇妙な問題点をいくつかあげておきます。「クリプトスポリジウム感染症の発生例」でミルウォーキーでの死亡者数を、以前の指針では「このうち400人余りが死亡」となっていたのを「WHOによると、このうち400人余りが死亡」と語句追加しました。これは昨年、私が担当者に400人死亡というう数字は存在しないので訂正したらと指摘していた個所ですが、厚生省側の言い分はWHOの書類にあるからと主張していた件です。*

 ミルウォーキーの保健当局トップと疫学担当者に厚生省の間違い数字を伝えたら、なぜそんなおかしな数字を出しているのかと訝しがっていましたし、ミルウォーキー側からWHOに400という数字を報告した事実はないと断言していました。いったい、どこからそんな間違い数字が出たんでしょうね。For hundred pepleをfour hunderedと聞き間違えたのか、それとも400人という間違い数字を正しい数だと勘違いしている日本人関係者がWHOで堂々とウソ数字を紹介したか、どちらかではないかというのが私の推測。

 どちらにしても、現地に確認もせず勝手な数字を作りだし、それを覆い隠すために、「WHOによると」などという句をつけて逃げるとこなんか、『役人作文丸出し』で、恥ずかしい。私の話が信用できない方はミルウォーキーの保健当局に電話してみて下さい。真偽はすぐにわかります(苦笑)。日本のマスコミはこの数字を何の疑いもなく使いますが、恥ずかしい行為の上塗りになるので今後はやめて下さい。

 2番目。クリプトスポリジウムの生物特性を紹介した個所で「ただし冷凍や乾燥には弱く、-20度以下で30分、常温・乾燥状態で1〜4日で感染力を失う」との記載があります。これは納得できません。文献によると、-20度8時間程度では感染力を失わないという報告も出ていますので、冷凍庫に入れた食べ物や水なら30分で大丈夫ということで感染を広めたら大変(誰がこの個所を書いたか聞いていますが、名は伏しておきましょう)。

 3つ目。汚染源に全く切り込んでいない。米国の調査では多くの牛などの家畜糞便からクリプトスポリジウムが検出されることを重視し、各地の水道当局ではそれらの水源集水域への立ち入りや排出を制限しようとの動きが出ています。が、厚生省は農水省への気がねなのか、その辺をきちんと触れていません。これも前回の指針から全く変わっていない点です。汚染源を放置した対策指針っていったい何のための誰のための指針なんでしょうか。下水処理場放流水に関する実態調査も建設省が握ったまま。噂ではクリプトスポリジウムが結構検出されているらしいのですが闇の中で、困った話です。

 水処理に関する指針内容も水源問題を軽視している限り、小手先の責任逃れ論に過ぎません。ミルウォーキーやシドニーと同じことが日本や起きたとしたら、この指針では役立たずですね。やはり、前項で書いた大きな問題点をなんとかしないと住民の役には経ちません。

* ミルウォーキーにおけるクリプトスポリジウム感染事件での死亡者数は約100人です( これについては[#W11]に関連コメント )