マリオネットシアター オーストリア旅行その9

.Travel & Taste

ザルツブルグといえば音楽の都。有名なザルツブルグ音楽祭は7月8月ですが、それ以外の季節もそこかしこで演奏会が開催されています。その中で、私たち夫婦の好みはマリオネットのオペラ。というのも、ザルツブルグにはオペラ劇場を小さくしたような人形劇専用の本格的シアターがあり、言葉はわからなくても演技で楽しめるから。過去に2度訪れましたが、今回は3回足を運びました。

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ザルツブルグ音楽祭には一度行ってみたいと思うのですが、チケットが取りにくそうだし、期間中のホテル予約も難しいし、オペラに行っても言葉がわからないし、でハードルが高い。その上、世界のセレブが集まる祭りなのでドレスコードや作法などがハイソらしく、寛げる気がしないのが難点です(笑)。

mf1509以前、レジデンツ宮殿でシュロス・コンツェルトと称した弦楽四重奏などが行われていたのは既に触れた通り。現在その主催団体はミラベル宮殿に場所を移し、ディナーとセットにしたりと商売熱心になっています。当のレジデンツ宮殿の演奏の方もモーツァルト時代の衣装や昔のディナー再現などを売り物にしたりして、純粋な音楽演奏とは別のものに変貌したみたい。時代の趨勢ですかね。

私たちの今回の目当ては音楽演奏ではなく、マリオネットオペラ。ミラベル宮殿近くに専用劇場があり、通年でマリオネット劇が上演されています。私たちは30年前に「フィガロの結婚」を観劇し、感激してしまいました。27年前に訪れた時には「ホフマン物語」を観ましたが、当日風邪気味で咳を我慢するのに難儀したのを昨日のように思い出します。

たかが人形と侮るなかれ。間近で観ると、なかなかですよ〜、ホンマ。人形のサイズは50〜60cmくらいでしょうか。じっと見ていると感情移入するせいか、大きさの概念が曖昧になってきます。


sm1509b何が良いのかといえば、人間のオペラと違い人形の動きが軽妙で巧みなので言葉がわからなくても何となく意味が掴めることでしょうか。文楽のような背後から直接動かすタイプではなく、こちらは上方から操り糸で操作する人形なので舞台を飛び跳ねるような動きができます。文楽の人形は目や口回りを作り込んでいるので表情豊かですが、こちらのマリオネットは顔そのものはシンプルな作りで体全体の動きやしぐさで感情表現を作り出します。それぞれに良さがあると思いますが、バックの音楽を考慮すると、私は圧倒的にこちらのマリオネットオペラが好みです。

今回観劇したのは「サウンドオブミュージック」〈15日)、「ヘンゼルとグレーテル」(17日)、「マジックフルート」(18日午後のショートバージョン)の3つ。「サウンドオブミュージック」は映画50周年記念という触れ込みでしたが、映画の筋に忠実過ぎるためか、人形劇ならではの面白みが感じられず、ちょっと残念でした。舞台設定にもっと奥行きというか深みがあり、人形劇ならではの仕掛けや驚きがあれば面白いのに、とそんな感じ(注)。


hg1509また観客側にも変化あり。昔は客席はいっぱい、客の服装もそれなりで、幕間のロビーにはシャンペンを飲む人も大勢いて華やかでした。30年前に比べると時代が変わったのか、人気が落ちたのか、昔の華やかさとは別次元の空間になっていました。

劇の質が落ちてきたのかな〜と思っていましたが、後日レパートリーの「ヘンゼルとグレーテル」や「マジックフルート」を観ると、こちらはクオリティが高く素晴らしいデキ。まだまだマリオネットオペラは健在で安心した次第。でも、観客の減少が劇場運営を困難にして悪循環にならないかが心配です。

あ、そうそう、30年前27年前にはなかったことが2つ。1つはカーテンコールの変化。今回は人形登場の後で、幕が一番上まで上がり、人形を操作している人たちも舞台に顔を出すようになったこと。これは非常に良かった。パペッターの皆さんもやりがいがあるというものでしょう。もう1つは上演中に両袖白壁に英語やフランス語、イタリア語に続いて日本語の簡単な解説がプロジェクションされるようになったことです。ドイツ語がよ〜わからん者にとってこれは大助かり。この2つは嬉しい変化でした。


sm1509さてさて、ザルツブルグにマリオネットシアターが創設されたのは1913年、専用劇場が作られたのは1971年。二度の世界大戦を乗り越えた歴史を有しています(ただし1944年に一時閉鎖)。ザルツブルグと音楽との関係が絶えない限り、このマリオネットシアターもずっと続いていくことでしょう。でも、訪れる客層やその好みは次第に変化していきます。それに応じてシアターがどう変わっていくのか。次に行けるのはいつのことかわかりませんが、ザルツブルグへ行く機会があればまた訪れたいですね。


(注)映画ではトラップ家の逃亡を長女の恋人がナチスへ通報するのですが、今回の人形劇では見逃すという設定になっていました。「サウンドオブミュージック」は今世紀になるまでオーストリアで映画上演されなかったということからもわかるように、この変更はオーストリアの微妙な立場を反映しているのでしょう、きっと。